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■監査入門 2010年01月15日21:03

ウチの会社、ヨソよりも監査が多くないですか?~監査入門⑧

コンシェルジュ読者の方であれば、日本企業の海外子会社にお勤めの方も少なくないと思います。しかも親会社は上場企業という場合では、ローカル企業よりも監査の負担が大きくなるケースがあるのです。

●現地の法定監査

まず、香港と中国に存在するすべての会社は、それぞれの法令に基づいて会計年度ごとに監査を受けることが義務付けられていますので、毎期監査を受けることになります。この監査を現地の法定監査といいます。これについては、日本企業の海外子会社であっても、ローカル企業であっても同じです。

●インストラクション監査

現地の法定監査以外にも監査を受けなければならないケースとは、①日本にある親会社が監査を受けていて、②グループ全体からみて香港もしくは中国の海外子会社の重要性が高い、場合です。この場合には、日本にある親会社の監査人から一般にインストラクションと呼ばれる監査指示書が現地の監査人宛に発行され、そのインストラクションに基づいて監査をしなければなりません。

でも、なぜ日本の親会社の監査人が、わざわざ現地の監査人まで現地の法定監査とは別にインストラクションを送ってくるのでしょうか?

余計なお世話ではなく、実はこの手続が無いと、親会社の監査費用が大変なことになってしまうのです。というのも、日本の親会社の監査人は、グループ全体の決算書である連結財務諸表の監査もしなければなりません。日本にある会社ならば簡単に自分たちで行けますが、海外にある子会社も全部自分たちで行って監査するとなると、旅費と滞在費だけでもかなりかかるのは容易に想像できますが、言葉や法令の問題もありますので、海外の会社の監査をできる特別な能力を持った人材を確保することは相当困難なことなのです。つまり、現地の監査人に自分の代わりに監査してもらうことができるのであれば、これほど安上がりなことはないのです。

では、具体的にはどのようなインストラクションが来るのでしょうか? 主なものを挙げておきます。

会計基準のインストラクション

そもそも日本の連結財務諸表監査目的ですので、現地の決算書が日本の会計基準とほぼ同一で作成されていないと意味がありません。つまり、日本会計基準で監査してくれ、というインストラクションをだすわけです。ただし実際には日本会計基準で監査してくれる監査人はまずいませんので、国際会計基準もしくは米国会計基準で監査してくれ、というインストラクションになります。

四半期レビューのインストラクション

現地の法定監査では年度末の1回のみです。しかし、日本の親会社が上場している場合には四半期ごとにレビュー(監査の簡易版)しなければなりませんから、重要性のある海外子会社にも四半期レビューのインストラクションを出すことになります。

連結パッケージレビューのインストラクション

連結パッケージとは、あくまで親会社の経理部門が連結財務諸表を作成する際の手続を簡便にするためのツールですが、それ自体を現地の監査人が親会社の監査人の代わりにレビューしてくれれば、親会社の監査人とすれば手続が非常に簡便になります。従って、連結パッケージを導入している会社であれば、連結パッケージレビューまでインストラクションにて指示することが一般的です。

J-SOX監査のインストラクション

日本の上場会社では、内部統制の監査、いわゆるJ-SOX監査が導入されたので、この監査でも同様の理由でインストラクションが発行されます。ただし、日本独自の内部統制基準ですので、日本について全く知らない監査人だとまず対応できません。

ちなみにこれらインストラクションは監査人同士がやり取りする書面ですので、会社はその中身自体を知ることはできません。うちの監査人は何か余計なことまで質問してくるんだよな~って思ったとしても、監査人というものは無駄な手続は一切しませんので心配ご無用。ちゃんとインストラクションに基づいて監査しているのです。