■国際税務 2008年11月11日15:57

来料加工へのタックスヘイブン対策税制

今月号の月刊「国際税務」に最近の裁決事例に関する解説記事が出ていました。

来料加工形態を採る香港子会社に対するタックスヘイブン対策税制の適用については、長年国税側と企業側との間で争いとなっているところですが、未だ国税審判所レベルの裁決までしか出ておらず、裁判で白黒ついていないのが現状です。

今回の記事も国税審判所の裁決の要旨を解説したものでした。

これら訴訟の最も重要な争点は、「来料加工形態は製造業か卸売業か?」という点です。

現在の法律上、この認定によってはタックスヘイブン対策税制の適用除外になるかどうかが全く変わってくる一方、来料加工形態はその判定が考え方によってはどっちにも解釈できるからです。

企業側 : 日本標準産業分類上、製造卸業に該当 => 卸売業 => 適用除外

国税側 : 実態としては製造業 => 適用対象

形式的には、国税庁通達で「原則として日本標準産業分類をもとに業種を判定する」とされていますし、来料加工形態を日本標準産業分類に当てはめれば製造卸業になるでしょう。

一方、実態から見れば、製造業の方が一般常識に近いというのは間違いないでしょう。

結局裁判の結果は、形式重視なのか、それとも実態重視なのか、というところで決まってくる訳で、こういう不毛な争いは裁判官次第で決まってしまうとしか思えません。

来料加工なんて十分理解できる裁判官はそんなにいるはずないですし、裁判官からしたら企業が租税回避しているような第一印象を持つのは間違いないところですから、これは分が悪い勝負だと思います。実際にこれまでは企業側が負けている裁決が多いですし。

このように、仮に「実態で判断する」とのコンセンサスが今後生まれた場合、現行法上は来料加工形態はタックスヘイブン税制の適用対象となります。

ただ、これはタックスヘイブン対策税制のそもそもの趣旨に合致しているのでしょうか?

タックスヘイブン対策税制の趣旨は、「低税率国へ租税回避目的の法人設立による課税逃れを防止する」ことです。

来料加工形態の香港法人はこのような目的で設立したのでしょうか?

違いますよね。

香港と中国の企業誘致や優遇税制から、そのような形態でビジネスを行うことが企業利益に合致すると判断して、リスクを冒して日本企業が進出していった訳です。

決して日本の租税回避目的で進出した訳ではないはずです。

従って、個人的には、訴訟を起こすのであれば当然ここにも争点をもって来なければ勝てないと思いますし、日本企業の活力を削ぐような結果にならないように大本のところで戦わないといけないと思っています。

本来であれば、これだけ長い間グレーな状態で放置して企業の安定性を阻害しているわけですから、裁判官に頼って裁判の結果待ちというのではなく、十分に専門家が議論して、法律上で明確に考え方を示すのが筋だと思っています。

税制改正の場で取り上げて早急に深い議論をしていただくことを切に願っています。