■お金の管理 2008年09月05日16:36

損益管理~お金の管理④

「あなたの会社は今年どのくらい儲かりそうですか?」このような質問を華南地方の総経理の方にすると、多くの場合で実績より多めの金額で回答が返ってきます。もちろん自分の会社を良く見せるため、ということであれば問題はありませんが、これが正直な回答であるならばいささか問題です。正しい意思決定を行うためには、正しい現状認識が前提となるのは言うまでもないからです。

同じ質問を日本の社長にしてみたら、どうでしょうか?もちろん社長によって回答にばらつきがあるのは当然ですが、私の経験から言えば、華南地方で質問した場合よりも実績に近い回答が多く得られると思います。つまり、日本の社長のほうがより正確に現状認識しているという感じがします。

このことを私なりに分析しますと、以下のようなことが影響しているのではないでしょうか。

1. 全ての損益を考慮していない

上場企業の社長は最終利益に対する責任を負い、上下いずれに振れても修正発表をしなければなりません。また、オーナー企業の社長であれば会社の利益は自分の財産に直結するため、最終的にいくら残ったかについて強い意識を持っています。いずれにしても社長ともなれば常に最終損益がいくらになるかについて注意を払っています。一方、総経理として赴任する方の多くは、売上総利益については強い管理意識がありますが、販管費・営業外損益・特別損益と損益計算書の下にいくに連れて管理意識が低くなる傾向があるように思います。従ってこのような費用については期中ではあまり意識していないので、決算時になるまで見込みに入れていないことが多いと考えられます。

2. 会計資料に対する理解の難しさ

日本では会計資料は当然日本語で作成しますし、制度的な背景も分かっているので理解しやすいです。一方、華南地方では正式な会計資料は英語または中国語で作成されていますので、実績をタイムリーに正確に理解することはおろそかになってしまいます。従って、どうしても期中は自分で理解している売上まわり中心の思考になりがちです。

会社のお金を増やすためには、まずビジネスの現状を正確に理解することが土台となります。その上で、この費用は削れそうだとか、売価を改定しなければ採算が合わないので得意先と交渉が必要だとか、いろいろ知恵を振り絞ることでお金を増やすための対策が打てるのです。

つまり総経理としてその腕を最大限生かすためには、まずその土台をしっかり作っておくことが必要になります。ただしこれは難しいことではありません。以下の三原則をきっちり守れば、自ずと損益管理のヒントが得られるはずです。

1.月次で実績管理して、月次推移表を作成する

ある一定期間の実績を並べて過去のトレンドを理解し、それをもとに過去の吟味と将来の予測をすることは損益管理の一つの有力な方法です。例えば決算書は年次で作成しますが、全く知らない会社であってもこれを何年か分並べるだけで、その会社の問題点や将来性についていろいろなイメージが出てきます。ただし一年単位のデータでは細かい分析はできませんし、最新のトレンドも見過ごしてしまいます。そこで経営に役立てるためには、短い単位で最新の情報を並べることが有効です。

原価管理などは毎日の積み重ねなので日次で行った方がより効率的な結果を得られる場合もありますが、経営者の役目は細かい改善点ではなく大きな改善点を見つけることです。従って、経営管理として最も有効なのは、月次でしょう。

そして過去12ヶ月分の月次損益計算書を月次推移表として作成してください。この表を一覧するだけでもいろいろと気づきがあるはずですが、対前月比と対前年同期比である程度増減している項目については、必ずコメントを残しておくことをお勧めします。増減には必ず理由があります。分からないままにしないで必ず答えを出すようにすることで、気付いていなかった現実が見えてくることにもつながります。

2.予実管理を行い予算の正確性を高める

おそらくほとんどの会社では月次予算を持っていることと思います。そして予実管理も実際に行われていることでしょう。ただ実際の運用をみてみると、分析が甘いケースが多々見受けられます。予算を策定する時点では個々の積み上げは不十分であるため、前年度実績を単に月割りしたり期待している水準として策定せざるを得ないケースが多く、この数字と単純比較したのでは即効性のある改善策は生まれません。つまり、予算を策定したときの前提を考慮した上で実績と比較しないと、意味のある分析にはならないのです。

従って、必ず予算数字の意味合いを考えながら実績と比較してみてください。予実管理は予測が合理的であって初めて意味を持つものです。これを続けることによって翌年度の予測もより正確にできるようになりますし、合理的な予測と実績との差異を調査することによって新しい気づきが得られるからです。

3.全ての損益項目を考慮する

会社が儲かったかどうかは、税金を支払った後の金額の多寡で決まります。そのため、営業利益を計上していても多額の固定資産除却損や棚卸資産評価損を計上した結果税引後純利益がマイナスになってしまっては、その会社は儲かっていないのです。

これらの特別項目は年度末だけ関係してくると思いがちですし、原因が発生してからだいたい数年間のタイムラグがあることも多いため軽視されがちですが、あくまでこれらは期中の経営の結果として表れてくるものです。

例えば売れ行きが鈍ってきている製品があったとしましょう。その時点では予算通りに生産を続けても在庫として計上されますので、月次損益上は売れ行きが悪かろうが関係有りません。在庫はもう売れないと分かった時点で費用計上されますので、当たり前ですが作りすぎた分の在庫はいずれは会社の利益を減少させることになります。従って、経営者としては売れ行きが鈍ってきている時点で十分な検討と生産量の調整を行って、在庫を作りすぎないようにしなければならないのです。ただし、営業損益だけを気にしているのでは、この失敗を何度でもしてしまいます。評価損を計上するのは数年後ですし、特別損失として計上することによりこの経営責任が不明瞭になってしまうからです。このように、常に会社の最終損益を頭に入れて経営をするということは会社の損益を管理する上で最も重要なことだと思います。